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個人的な体験 - 大江健三郎

 脳ヘルペスという障害を持って生まれてきた子供の父親『鳥(バード)』の混乱を描いた作品。

 読書中。昼休みに地下の喫茶店で読み終えた。

 子供が生まれることにもどこか他人事のような態度で妻に病院で付き添うわけでもなく、むしろアフリカに行きたいという自分の夢を妨害するものだという認識が勝っているように感じられる。生まれてきた子が脳障害を持つと分かり、行き場を失ったバードが行き着いた先は大学時代の同級生の火見子のところだった。
 障害を持つ子供に向き合おうとせず火見子との関係に逃げ込むバード。しかし子供のことを片時も忘れることは出来ない。このまま死んでしまった方が子供のためでもあり自分(と妻)のためでもあると思っているバードにとって、病院で治療が施され子供が生き延びることが恐いのだった。だから彼は病院からの電話を待ち続ける。しかし連絡は彼が期待した子供の死ではなく子供の体力回復と手術への同意を求めるものだった。バードは子供を引き取ることを決意し、火見子の知り合いの医者に処分してもらうことを決断する。
 皮肉なことにその道中、子供を死の世界へと送り届ける道中でバードはほとんどはじめて子供と向き合う。子供が横になった寝籠を車の揺れから守るように大事に抱えている。彼の頭の中にある考えと彼の態度は相反しているように思える。子供を死へと送り届ける車の車内で一生懸命になって子供を守っているなんて。
 子供を闇医者の元へ届けた後、子供(の障害)から逃げ続けてきたバードは過去に自分が見捨てた弟分と出会い(妻の提案で彼は子供に彼の名前を付ける)、それからの人生について問われ、自分の人生がけして上昇してきたわけではなく、職を失うことがほぼ決定的となった今、はたして何かから逃げてなお守るべき物があるのかと疑問に感じた瞬間に彼は障害を持って生まれてきた子供を守ることを決意する。
 彼の転換はあまりにも突然訪れるので驚いたけど、彼が思い直して本当に良かったと感じた。涙が出そうにすらなった。最後に彼が義父に打ち明けたように、彼は何もまっすぐに子供を守るという困難な選択肢を選んだわけではない。彼は逃げに逃げ続けた結果としてそれを選んだ。この先、彼の人生にはさまざまな困難が待ちかまえていると思う。彼はきっとまた逃げ出すかも知れない。それでもボクは彼がきっとまた困難ではあるが自己欺瞞に駆られずに済む、何かから逃げ続けない人生を選択してくれると信じたい。

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大江 健三郎
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