- 2008-03-28 (金) 11:56
- Literature
短編集『空の怪物アグイー』所収の表題作を読書中。読了。
個人的な体験とはちょうど逆の設定か。脳に障害を持って生まれてきた子の未来とそのような子を持つ自分たちの未来を悲観(?)して見殺しにしてしまった作曲家のDと、Dの父親から彼の外出時に付きそうアルバイトを受ける主人公の大学生。子供の死語に子供の脳障害が回復可能だったという事実を知らされ(脳ヘルニアではなく浮腫だった)、Dは外出すると空から大きな赤ちゃんが降りてきて会話をするようになる。それがDの狂言なのか、それともDが精神的に病んでいるのかはわからない。クリスマス前にDと主人公が銀座で買い物をしているときにも空から大きな赤ちゃんが降りてきてDと会話をはじめる。Dは何かを追いかけるようにして突然トラックの前に飛び出し死ぬことになる。
Dは自分が未来から来た人間のように生きているという。この時代に痕跡を残してはいけないので一切の外的要因との関わりを絶っているのだと。しかしそれは本人も告白しているように、もうこれ以上新しい思いで、失いたくないと思えるものを得たくないのだろう。何も得なければ何かを失うおそれもない。
Dが精神的に病んでいようと、空から降りてくる大きな赤ちゃんを口実として何かを成し遂げようとしていたにしようと、いずれにせよDは自ら死を選んだのではないかと思う。一緒に時間を過ごすことの出来なかった赤ちゃんとともに東京の街で2人だけの思い出を作ったのではないか。他者とは思い出を作らなかったDが(主人公は別だが)、すでに失われてしまった子供との思い出を作ろうとしたのではないか。Dの死の床で主人公はそのように憤る。Dの自殺に協力させられていたのではないかと憤るのだ。
個人的な体験のバードが選んだ道が良いというのではないけれどやはりそれを選んで欲しいと思えるものだったが、Dが選んだ道が間違っていたとしたらDはその罪にさいなまれて生きることとなった。自ら選んだ道について自らの方法で落とし前を付ける方法をDは選んだのではないかと思う。
新潮社 (1972/03)
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